彼らの挙式・11年前の幻影

■彼らの挙式

思えば僕は、恋愛沙汰のせいで音楽活動に支障を来たしたくないとか言って、頑なにバンド内やサークル内の女性とは付き合わないようにしていた。でもまあ、今となって見れば、大学のサークルやゼミで出会って結婚に至ると言うのはごく一般的な事だ。普段からずっとそばにいるから、長所も短所も全部理解して行けるのだろう。

名古屋には複雑な思い出があるけれど、今回は本当に呼んでもらえてよかった。神前式も初めてだったし、そもそも名古屋に住んでいたこともあるのに熱田神宮も初めてだった。何よりも新郎新婦、その家族親族、そして友人一同皆が幸せそうだったのが印象に残った。普通は当たり前なのかも知れないけれど、うちの親子関係に照らすとうらやましかった。心からおめでとうを言った後に少しだけそう思った。

ああやって幸せに見えるのは、新郎新婦各々が幸福の種を持っていて、二人合わさる事でそれを育てて実らせているのかな、とぼんやり思った。まず自分がそれなりに幸せでなければならない。負のオーラに沈み続けていても、多分誰も幸せにならない。

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■11年前の幻影

その結婚式の三次会に出ると横浜まで帰れないのでホテル泊した。

せっかく名古屋まで来たので何かそこでしか出来ない事をと、前夜の二次会から合流していたMに連れられ、名古屋のM人脈の方々とカラオケへ。あの名古屋系孤高のバンドのヴォーカルさんとご友人のメタラーさん、M、僕と言うのはどういうメンツなのか。とにかく、本物のヴォーカルの方を前に歌う事があるならもっと日頃から精進しとけばよかった。やっぱりただ歌うのと本物の歌い手は全然違う。身の周りでもごく一部の人がそうだけれど、何かが決定的に違う。

失礼ながら僕は音源を自分から買って聴いていたわけではなくて、11年前に関西で組んでいたバンドで相方だったギタリストが大好きだったので知った。その彼の家で掛かっていたCDから流れていた「サイレン」を、ご本人に目の前で歌っていただけるなんてあの頃の自分達に見せてやりたい。他にも、あの頃の色々な事を思い出した。

ちなみに自分のやっていたほうのバンドは自分の中では黒歴史で、手元には写真も音源も一切残していない。参加して半年の間に一気にバンドが大きくなり、その過程で大変に揉めて流血沙汰になったり、果ては関係者の恐ろしい部分を眺める事にもなった。参加していた事実も否定していたくらいだった。

でも、僕はやっぱりその時やっていた事も好きだったんだろう。歌が、音楽が好きだったんだろう。理屈が通じなかったり、我が強い人が多かったりしたけれど、だから僕も音楽に倒れ込んでいたんじゃないか。

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数年も会わなければ人は変わる。しかし、やっぱり人の基本となる部分までは大きくは変わらないのか。たった二日間だけど何日分もたくさんの事を思い出し、何日分も何年分も考えた。結婚式でお会いした方々、月曜日にご一緒してくださった御三方、ありがとうございました。

もう20年になるのか

ジャコ・パストリアス20回忌に、彼の最後のバンドの日本公演のライブ映像を見る。今見ても驚くほど斬新だ。

ジャコが凄いのはもちろんだが、周りを固めているメンバーも凄まじすぎる。特にチューバとスチールドラムは何なのだ。稀に見る素晴らしいバンドだ。

良い音楽の演奏には技術は必ずしも必要ではないと言う人も多い。でも、例えばギターボーカルを目指すだけでも、歌と両手は完全に独立するまで熟練しなくてはならない。インプロビゼーションをするならメロディとハーモニーとリズムも考えなければならない。それをインタープレイでこなすのはかなり大変だ。単に個人の技術が要るのか要らないかを議論するのは不毛だろう。自分が出来る事の上にどれだけ有機的な繋がりを持てるかどうかで格好よさが決まるはずだ。

今でも身の回りのキャリアの長い方やセンスの良い方から、演奏を通して何かを学び続けている。僕が先達を見て育ったように、後輩等に何かを伝えて行けたなら、それこそが集合知になりうるのではなかろうか。

というわけでセッションやヘルプには積極的に参加したいと思うので、興味のある方々は呼んでみてください。

謝罪・感謝

精一杯生きて来たつもりでも、その結果が満足いくものではないと見なされる。仕事の選び方も住む場所も最善ではないと見なされる。揚句、考え方自体が非常識で間違っていると指摘される。自分なりに真剣に考えて導いた論理を間違っていると言われても、それなら何の規範に従って生きればいいんだろう。正しい道がわからなくなり示唆を求めるのも未熟な情けない人間と見なされる。

せっかく生んでもらったのに、生まれたのがこんな人間ですみません。

そして注いで頂いた労力も虚しく、こんな育ち方をして、こんな人間になって申し訳ありません。

何の疑いもなく、家族やコミュニティの善しとする価値観に近い判断が出来ていたなら、誰にも嫌な思いをさせずにすんだ。軋轢を生むだけの存在なら、初めからなければよかった。間違った人間の代わりに正しい人間があればよかった。

でもこんな人間だからこそ、過去に仲良くしてくれていたり、今支えてくれている皆様に会えた事を感謝しています。

その感謝を胸に、苦しくとも悲しくとも訳がわからなくとも、次の一日、その次の一日を改善して生きていこうと思います。社会という共同幻想に与し得ない者には世は須らく理不尽だから、致し方ありません。

ライブその後

リハーサルで出番がトリだと知る。9曲中で3曲参加だった。

結局僕が呼んだ人は誰も来ず、ライブが始まった時は客数10前後。

出番が前の二人はいずれもプロであり、ギター弾き語りのシンプルな構成ながら歌も演奏も素晴らしかった。人の心に届く演奏には本来音数は必要ないのだろう。パーティーイベントではお客様に楽しんでもらうのが全てなわけだし。

自分の方は例によって至らぬところばかり。今回は失敗を顔に出さなかったのでメンバー以外には多分気付かれていなかったようだけれど、手と頭が上手く繋がらず、致命的なミスタッチが多かった。そうではなくても初めてのメンバーとのインタープレイは本当に難しい。薄着氏等はよくもまああんなに出来るものだと思う。

無理矢理にテンションを上げて臨んだので、昨日は一日中空気が抜けていた。疲れたのとも違うこの感じは何だろう。

全盛期の自分の記憶にえぐられた喪失感だろうか。