彼が「どうしたらいいのかわからない」と電話してきて、あまりにも憔悴しきっていた。
たまたま目の前にいたので、急いで半分廃屋のような彼の一戸建てに入った。
湿った暑さの篭る部屋で、彼の目は血走り、上下のまぶたは殴られたのか泣き腫らしたのか真っ黒だった。
台所のまな板には捌きかけの大きな魚の頭と胴が切り離された状態で置かれ、残暑の中放置されていたからか、少し腐臭がしていた。
彼がどうしようどうしようと半狂乱でめくった座敷に敷かれた布団の中には、目と口を見開き泡を吹いている彼の母がいた。
何やってんだ、早く警察と救急車!と叫び、僕は電話を取った。「火事ですか、救急ですか」と問い掛ける電話の向こうの声を聞いている間に、凄まじい嘔吐をして彼の母の呼吸と脈は止まった。救急車はなかなか来ない。また間に合わなかったと、ただ空しく、全てが虚しく思えた。