僕の出し得る答え

僕の身体は一つしかない。
僕の心も、多分一つしかない。
幾人もの人が僕に相反する事を同時に命令し、明示的あるいは暗示的に僕に最大限の誠意を見せた対応なるものを要求している。もちろん、強制力として彼らの意に反する選択をした場合にはペナルティーが用意されている。


今回は、取引先に誠意を見せる為に僕が東京の某社常駐に戻されることになったという。取引再開の為の人身御供、あるいは人質だ。
確か僕は近日中に会社を辞める意志があることを伝えていたはずなのに、東京に戻るのだから当分は辞める必要もないだろうと上司は判断したようだ。名古屋勤務だけが退職希望の原因ではないことも伝えていたのだけれど。新規で僕専用の事務所が用意されるなどと言うことになればますます辞めようにも辞めにくくなるではないか。はめられたのかとすら勘ぐってしまう。
僕の意思とは無関係なところでどんどん話は進んで、知らない間に決定事項として僕に告知される。きっと、突然球団合併を告知された近鉄とかの選手も僕と同じような気持ちだと思う。今後の人生に関わるところで選択権がないのは何故なんだろう。何で自分の望む人生を生きようとすると恫喝されねばならないのか。
僕は弱く情けない人間だから、恐ろしいものに対しては媚び諂ってしまう。だから、そんな状況の下で何か優しい手段でお願いされることがあったとしても、今の僕には返事を待ってもらったり我慢してもらったりすることしか出来ていない。
はっきり言えば優しさに甘えているんだと思うし、それで苦々しく思わせてしまうのは僕の問題の犠牲になってもらっていることに他ならない。本当に、こんな生活に巻き込むつもりは全くなかったんだけれど。
普通の人はこんな状況に置かれることはあまりないと思うし、もしそうなってもさっさと逃げ出してしまうだろう。
でも、今まではどれほど無茶なことでも無理なことでも何とかして乗り越えてこれたのに、それを崩してしまうと僕は本当に駄目になってしまう危機感がある。一度逃げると癖になってしまい、今後ずっと逃げ続ける人生に雪崩れ込んでしまう予感がしている。だから、今ここで逃げるわけには行かないと思っている。それに、義務を果たさない者には権利を主張する資格はないのだ。勤労は権利だけれど、受注した仕事を納期までに仕上げることや業務命令は義務だ。
こんなことを言っている事自体が駄目だし、人に迷惑をかけているのもわかっている。それに、いつか今の問題を克服したとしても、この考え方を捨てない限りはまた壁に突き当たり、同じように悩み苦しんで行くのだろう。逃げてしまえば楽だろうけれど、それで全部が終わる気がするから逃げられない。
これでは幸せでいられるはずもないし、こんな僕が人を幸せに出来るだなんておこがましかった。考えれば考えるほどもう駄目だ。僕ではない誰かになって、身近な人に日々の小さな幸せを運べるようになりたい。
もう疲れた。

Copyright © 1999-2022 Koji Kusanagi (k2works) All Rights Reserved.