夢の風景 (3)

僕は彼と気球を作っていた。
今日は20階建てのビルの屋上のヘリポートから、彼が搭乗しての飛行試験だ。
飛び立つ瞬間までは野原で練習してきた今までと同じだった。
今日違ったのは、屋上の端から離れた瞬間、強烈なビル風に巻き込まれて気球が壊れ、彼もろとも落ちていったことだけだった。
パシーンというような、嫌な音がした。
僕は周囲で見ていた人に設計ミスを叱責されてもみくちゃにされた。救急車の音が聞こえたが、付き添っていくことも出来なかった。その後も事故の責任について警察官の取り調べを受けるなどして、長い間拘置所から出ることも出来なかった。彼が生きているのか死んでいるのかも知らないままだった。
長い長い季節の後、僕は偶然そのビルの下を歩いていた。
そこはただの明け方の殺風景な街角で、血痕もなければ何かがあった痕跡もなかった。
一台の車が目の前に停まった。運転しているのは彼の母親で、そして後部座席には彼が乗っていた。髪がまばらに生え始めた頭には縫った跡がツギハギのようにつながり、顔と頭の左半分は、内出血したのか真っ青だった。
窓を開けて彼は言った。「気球が落ちることなんてよくあることだし、あんな場所から飛び立つのにリスクがあることは判ってた。それは別にいいんだ。けど、あの時お前が降りて来なくて、俺を見捨てたのは絶対に許せない」
走り去る車を見送りながら、僕は何を言われても仕方がないと思っていた。理由がどうあれ、当然僕は死ぬまでずっとこの罪を背負って行くのだ。

まじめな良い子

巷で噂のデータでわかる辛口性格診断に挑戦してみた。

あなたはもろ「いい人」! 「まじめな良い子」タイプです。もしかして、このエゴグラムの質問も1問1問真剣に考えてすごく時間かかりませんでしたか?あなたは、人から何かを頼まれると「いや」とは言えずに自分を犠牲にして人に尽くすお人よしです。陰日なたなく、人の批判や悪口などをいうこともありません。人よりも楽をしてもけようなどは言語道断。コツコツと地道な努力家といえますね。親という立場ならば、みな口を揃えて、あなたのような子供が欲しいと思うことでしょう。ひとつ、欠点をあげるならば、周囲に流されがちで的確な状況判断が弱いことです。周りに気を使いすぎて疲れていませんか?今一番大切なことは何か、優先順位をつける努力が必要です。一度にたくさんの悩みを抱えてどれもこれもどーしよう!!なんて状況になったらうまく気分転換しないと、抑うつや心気症などになりやすい危険性を持っています。神経的にまいってくると胃腸にでてしまうのもこのタイプの傾向としてみられます。

エゴグラムでは CACBA。自分ではそんなに真面目な人間だとは思っていないけれど、仕事で周りに流されているのは本当なのでまあ当たっているのかもしれない。

【仕事】
あなたは、仕事に関する業務知識を習得しようと努力し、常に新しいことにチャレンジしたいという向上心が強い人です。このままいけば、今の会社で確実にステップアップしていけるはず。
でも、会社に気を使うあまり、プライベートを犠牲にしてしまうことも多いようです。無理をして身体を壊したり、恋人や家族をないがしろにすることがないように、気をつけてくださいね。あなたは会社のロボットじゃないんですから。たまには「いい子」をやめて、肩の力を抜いてみましょう。

これなどまさにその通り。状況証拠がここまで固められた場合、そろそろ行動に移すべきなのかも知れない。

辞めると口にすると、いつも 「で、君は辞めて何を得るわけ?」 と返されてしまうけれど、これ以上大切なものを失わないうちに手を引くのが賢い者のすることだと思う。

昼夜逆転を直す

ずっと朝方まで起きているうちに、深夜の時間帯よりも午前中の方が辛くなってきた。人は25時間周期で生きているらしいので、生活パターンが夜型になってしまっているようだ。今日から毎日昼間に予定があるので、とりあえずこのまま寝ずに夜まで粘ってみよう。
もし眠ってしまったら、ハナイ師の教えに従ってみることにする。
しかし、明日の金曜日が納期の仕事がある以上、今日徹夜することを選んだのはリスキーだったかも知れない。経験上、僕の担当ではない物件でも、納期前日にヘルプで徹夜をした確率は、ここ半年では 90% を超える。今夜は少しでも眠れますように。

立ち位置

あちらこちらに心配をおかけしているようで申し訳ありません。
僕は相変わらず現場では一番の下っ端なので、誰にも文句を言わず、ひたすら何を言われても忍の一字で過ごしています。多分、会社関連の知り合いは僕が自分のサイトを持っていることすら知らないでしょう。
だからこそ、ここで普段言いたいことを書き殴ってある程度の発散をすることも可能なわけです。守秘義務に関わる内容は書いてませんし、別に見つかっても問題はないですが。寧ろ問題になってくれれば幸せかもしれません:-)
僕は昨年 9 月に前の勤務先が倒産して以来、 1 月中旬までは個人事業主、現在は前の勤務先からスピンアウトした開発者 4 人 + 営業 1 人の会社にいます。10月からの業務は、一貫して潰れた会社の業務整理と以前と変わらぬ取引先からの新規の受託開発です。倒産の時に全く別の就職先も見つけてはいたのですが、物件の一つに担当者専属契約があったため、巨額の違約金を払わないことには抜けることすら出来ませんでした。本当なら倒産と同時に逃げればよかったんでしょうけど、生活できないほど給料の未払いが続いていたので、選ぶ余地はありませんでした。
今の会社は全員が張り詰めた筋肉で綱引きをやっているようなものなので、どこか一箇所が切れると全員が木っ端微塵に弾け飛びます。今いくら辛くても抜けるわけにはいきません。同じ迷惑をかけるなら、最低限の義理は果たすと言う意味でも、繁忙期ではない時期に抜けるほうがまだマシだと考えています。少なくとも、開発者 4 人の中で僕にしか出来ないことが多すぎるので、辞めるのは引き継ぎが出来る人材が入ってきてからが順当です。しかし、残務整理で無給労働をしている状態ではとても増員が出来るような経営状況ではないので、そのうちに前言を翻さざるを得なくなるかもしれませんが。
辞めた方が楽なのはわかっています。同じ業界でもここまで底辺なのは銀行系くらいしか知りません。ただ、これから子供が生まれる上司や、新婚の先輩の家庭を崩壊させるのに比べれば、僕が追い込まれるくらいは我慢すべきじゃないかと思っています。
上司や先輩は僕と同じ開発者の道を選んでいるので仕方ありませんが、彼らの奥さんや子供たちは普通の幸せを得る権利があると思うのです。人のことを考えている余裕があるうちは僕はまだ平気なんじゃないでしょうか。それとも、自分の身の危険を察知できないほど、危機感が麻痺しているのでしょうか。

カットオーバー幻想

調子に乗ってもう一つ。
今日、午前 3 時過ぎにある一つの物件の最終納品を済ませた。
納品といっても FTP や SSH でサーバにスクリプトとデータを入れて動作させるだけなので、どこかに行かなくてはならないわけではないけれど。
実は、この仕事では、同じものを 4 回作り直している。
1 月 13 日着手。 1 月 21 日納期。初期工数 10 人日。完全に 1 人でやっているので、計3日徹夜して、同日早朝、初回納品。
仕様は紙一枚で来ていただけなので細かい部分について即改修が発生し、毎日逐次修正し 29 日に第 2 回納品。
2 月 3 日に客先要望で改修が発生、初期工数と同じ費用を頂いた上で、2 月 11 日に第 3 回納品。
このときも原稿をもらえなかったため、再度改修が発生し、先ほど第 4 回納品。今度こそカットオーバーかと思っている。
自分で見て思ったけれど、この仕事単体でさえ 1 日 8 時間の労働時間の前提は破綻している。納期が終わったら次の仕事が出来ると思って次を入れていても、営業担当会社が改修を受けると決めてしまった場合下請けは断れず、絶対に 1 回でカットオーバーすることはない。次の仕事が始まってしまうと、深夜帰宅してから自宅パソコンで朝まで引きずっている方をやる羽目になるので、成果物の品質は劣化し、さらにスケジュールは遅延する。命を守るための最低限の睡眠を取るとして、それも遅延の要因に入ってしまう。
今、僕は上記以外にも、同じような過密スケジュールで工数が数人月単位の大きな物件を2つ抱えている。そちらもそれぞれ週に2回ほど納期があるので、結局毎日徹夜することになる。他の人のヘルプ作業まで入れるともっと数は増える。
そして、何よりも恐ろしいのはこの状態の僕が社内で誰よりも負担が軽いことだ。だから、僕に転がってきた仕事は誰にも振れないし、他の人から SOS が出たら助けなければ死人が出る。
そもそもなぜ、 1 人の人間が 1 ヶ月に 5 人月の工数をこなす前提でスケジュールが組まれているのだろうか。社員全員体力の限界まで働いていて、全員給料は一律なので、一番キャリアが浅く技術も足りない僕は、そのそれなりの高給を甘んじて受けるしかないのかも知れないが。
僕も、前の会社に入社した頃はカットオーバーの翌日に有休を取って休んだこともあった。今はもう、カットオーバーという言葉自体が幻想でしかない。

ウェブサイト幻想

いくらウェブの業界がいい加減だとは言っても、通常のソフトウェア開発に倣い、おおよそ次のような割り振りでプロジェクトは進められていると思う。

  1. プロジェクトマネージャー(以下PM・総責任者)
  2. システムエンジニア(以下SE・設計担当)
  3. デザイナー・グラフィッカー(以下G・デザインや絵的な部分)
  4. プログラマー(以下PG・コード開発の現場)

デザイン部分は僕の工程に直接の関係はないので省くとして、他の 3 種類の業務に携わる場合、必ず上流工程の者が下流工程の業務担当を把握しておくことが必要だと感じる。少なくとも、PM がその物件で使用する技術について何ら知識を持っていない、などという事は致命的だ。
他の業界では絶対にありえないことだと思うけれど、ほとんど当たり前のようにマネージャの肩書きを持つ方々は現在の物件に関する技術的な知識を持っていない。そして多くの場合、提案書を書く SE ですら、何の技術を使って実現するのか理解しないまま、また聞きの知識でレジュメを仕上げる。
僕の身の回りで多いのは、PM も SE も単なる取次ぎと化しているケースだ。
PM も SE も仕様を理解出来ない物件の発注を受けてしまい、僕ら現場の PG が提案書を書き、PM と SE がそれを持って打ち合わせに行く。(そもそも、受注後に提案書を書くのがどうかしている。)
顧客からの質問事項は僕ら PG に打ち合わせ先から電話がかかって来て回答させられる。なぜか、受注段階で納期と発注金額が決まっているのに、確定した仕様を見ると提案書の5倍くらいに膨らんでいる。仕様を理解していないから、彼らは何が問題なのか判らない。
外注を使う予算がないので、結局自社の PG に詰め込むことになり、そして当然のようにスケジュールは破綻する。
別に PG 未経験で SE をやっても構わないし、本社からの出向で PM になるのも自由だけれど、せめてその改修が誰の担当箇所かは把握しておいてほしい。それはある程度歳の行った社会人なら誰でも持つべきスキルのはずだ。
複数の下請けを束ねている元請けの PM なら、エラーが発生したのはどの下請けが開発したモジュールかを確かめてから苦情を投げてきてほしい。
納期も費用の上限も決まっているのに、あり得ない大量の追加工数に対して見積を要求するのは止めてほしい。
ウェブサイトは紙に絵を書く程度でできると思い込んでいる顧客や、携帯電話でもパソコンで使えるウェブ技術が何でも利用できると思っている顧客と一緒になって、PM が開発者に怒鳴り込んで来るのは何とかしてほしい。
コストダウンというお題目に振り回されて、下請けを叩きのめしクオリティの低い製品を納入させることが、将来的に自社の看板を汚すことを真摯に受け止めてほしい。
自分の責任を果たさずに無駄に部下を討ち死にさせることの意味と、将来的な損失の大きさを考えてほしい。
最終的にこの馬鹿馬鹿しい損失が顧客に与える不条理を、顧客の立場に立って考えてほしい。

睡魔

毎日朝方まで仕事をして、1~2 時間眠っただけで次の一日が始まるのを繰り返していたからか、今日は昼間に 3 回ほどあり得ない状況で居眠りしてしまった。

  • 在宅で仕事をしていたはずなのに気が付いたら真横に倒れて寝ていた
  • 戸棚で書類の探し物をしていたら戸棚に頭を突っ込んで寝ていた
  • 夕食の買い出しに出て、気が付いたら道端に座り込んでブロック塀にもたれて寝ていた

一応心配になって調べてみたけれど、単に睡眠が不規則なだけでナルコレプシーではない模様。
寝れるときにはちゃんと寝よう。

海外未経験

友人末座氏は出張で人生初の海外渡航をするらしい。
かく言う僕も海外未経験だ。学生時代には友達によく海外旅行に誘われたけれど、お金の問題で一度も行かないままだった。カナダのウィスラーにスキーに行かないか、と誘ってくる学科の友人を、一体どこの世界の住人だろうと思ったこともある。
前の会社で一度カリブ海の小国、アンティグア・バーブーダに出張になりそうになったことがある。結局その時は渡航費と売上との費用対効果が折り合わず実現はしなかった。
昨日挙式した友人夫婦はイタリアでハネムーンだそうだ。彼らは海外に何度も行っているようだから、特に海外を意識するわけでもないんだろう。人によっては別に気にすることではないのかもしれないが、僕はなぜか、海外旅行は自分の身分には不相応なのではないかと思ってしまう。
いつか、僕も海外に行くことがあるのだろうか。

配水管閉塞

風呂を洗おうと思って残り湯を抜いたところ、洗い場に湯が噴水のように上がってきて大変なことになった。どうも下水方面に何かが詰まっているらしくて、シャワーで熱湯を流しても、さらには NaOH を流してみたりしても逆流してくる一方で、あと少し水位が上がると風呂場自体から水があふれそうな状態。
明日、業者を呼ぶことを決意した。何もこんな色々と閉塞している時に、配水管まで詰まらなくてもいいだろうに。

友人の結婚式

結婚式に招待された。
挙式・披露宴に呼ばれたのは初めてだったので、緊張した。
ご祝儀のマナーとか、その辺の常識を全然知らなかったので本で調べたり、普段着ない高いスーツを久しぶりに取り出したら、太ったためにきつくて途方にくれたり。そもそも今朝6時まで仕事をしていたので、全ての準備はそれからだったし。
しかも僕と新郎新婦の共通の友人は僕以外全員が欠席だったので、新婦側友人で男は僕一人だけで、その上僕は挙式には少し遅刻して行った始末だった。市ヶ谷まで家から1時間もかかるのを事前に調べなかったのが敗因。この遅刻癖は何とかしないといつか大変なことになりそう。
ともあれ、規模が大きい割に手作り感漂う暖かい式と披露宴で、あちらこちらで涙や笑いを誘ういい式だった。美男美女の結婚式は見栄えもよくて、そういうのを見ていると自分もいつか、と思う。僕は今の場所に立ち止まっていてはだめなんだと再確認した一日。