淘汰されるにあたって

多少のギターが弾けたつもりだったが、この1年でほぼ全く体が言うことを利かなくなった。練習してもなかなか勘が戻らない。

歩いているだけでも、時には座っているだけでも疲れを感じることがある。仕事中に眩暈がして仕事が進まないこともある。

僕は歳をとった。

全体が、緩やかにもしくは急激に落ちていく中で、生活レベルを維持するためだけでも常に勝ち続けなければ淘汰されるだろう。自分自身や身の周りだけでもそうだし、自分の両親が自分たちにしてくれた教育なり家庭環境の基盤なりを同じレベルで次の世代に提供しようとするならなおさらだ。

現時点ではほとんど何も、義務すら果たせていないんだろうと思う。

だとすると、これから最低でも28年勝ち続けるための強みとして何が使えるのか。

この期に及んで、甘い汁しか吸って来なかったひ弱なモヤシである自覚を持ってもどうしようもないのだけれど、覚悟が足らないのだと思う。現状を見据えて覚悟しよう。寝ている場合でもないから覚悟しよう。

話はそれからだ。

例えば蝶とその抜け殻

スーツを着て乗っていたはずの渋谷行きのバスを降りたら、何故か僕は全裸で駅前の四角い歩道橋を渡っていた。

指差して笑われたので自分の姿に気付き、降りたばかりのバスに戻ると、運転手と数人の乗客が無造作に服が突っ込まれた僕の鞄を見てニヤニヤしていた。いたたまれない気分になって、鞄を掴んで前だけ隠し、全裸のまま走って逃げた。

すれ違った警官は驚いていたが、とりあえず駅ビルの百貨店の非常階段に隠れて服を着る事はできた。

一体なぜこんな事になったのか全くわからず、外には非常線が張られているかも知れず、このまま会社に行ってもいいのかどうかを悩むと胃が痛かった。壁に頭を叩きつけると鉄の味がして視界が暗くなった。

極めて寝覚めが悪かった。

二度寝したら毎回こんな夢を見るなら、相当な抑止力になるのに。これは何のメタファーなのだろうか。

幼虫はただ飯を喰らっていればよかった。肥え太るだけで褒められる。誰にでも出来る事なんだろうけれど。

生存競争を勝ち抜いて、そのうち幼虫は蛹となり、生き残ればやっと羽化することが出来る。

蛹と蛆を氏名に含む僕の今は何に当たるのだろう。蚊でも良いから成虫であって欲しいが、実は知らないだけで自分は抜け殻の側で、成虫はドッペルゲンガーのように無限に遠い隣町を明後日に向かって歩いているのではと思った。

数々の約束がなかなか守れません。頑張りますので許してください。

えにっき


きょうはひどい雨です

せんたく物もくさい

しめり気で深こきゅうしても息苦しいので魚のえらがほしいです

でも魚になれません

きみには脳みそがなくてからっぽでただ

わけもなく生きてるのと同じだといわれました

知ってます

ぼくの頭がからっぽなのはロボトミーという手術です

でもわすれました

帰りにホワイトボートにかきました

わらわれてもまだ元気です

ヘッドバット

そこに立ってる電柱に頭、

後ろに引いて打ち付ける。

何度も。

目眩気持ちいい。

夜のベランダって真下から見たら天井明るいんだ。

ひんやりと背中にアスファルト。

目に暖かい赤。

散逸

時間が守れない。

ずっと体調が悪い。

時間があるようにても倒れていたり、優先順位が不明だったりして何もできない。

何かしなくてはならない状況に自分を追い込めば何か変わるかと思ったが、ひたすらに辛い。

飛び散ったかけらは別々の事を考えるし、各々には力もない。

逍遥の果て

新天地を見つけたつもりになったとして、少しだけ空が見える事に満足したふりをしてみたりする。

わかっている。

何度も同じ道を繰り返し歩き、同じ過ちを繰り返し、それでも結果を見なければ理解できなかった。

でもそうあった事が全てだったんじゃないか。

わかっている。愚問だけれど。

相関ジェノサイド

前回のは抽象的に過ぎたので、今日は具体的に書く。

二日連続ではっきりとした殺人絡みの夢を見た。

昨日は自分が絞め殺されそうになる夢だった。道を歩いていたら大きな男に因縁をつけられ、両手で頚を絞められたまま宙吊りにされ、意識不明になる。夢の中で意識が戻ったところ、地面に投げ捨てられていて左腕が有り得ない方向に曲がっていた。

今日は実家にいる夢だった。窓の外で断末魔のような悲鳴が何度も聞こえ、外を見ると中学校時代の同級生が大勢、野次馬のように何かを取り囲んでいる。見るとそこにはご老人が二人倒れていた。

頭から大量に血を流していた一人にはまだ息があり、その辺りに落ちていた大きなアスファルト舗装のかけらを誰かが掲げてみたところ血が付いていたので、これで殴ったのだろうということになった。もう一方は胴体と首から上が分離していたので素人目にも死んでいるとわかった。警察官が首を担架に失礼なやり方で載せるのを見ていると、僕自身が鈍器で殴られたのか後頭部から温かい血が飛び散り、真っ暗になって夢が終わった。

瞬間マヨネーズ

大事な古文書や、水彩の名画にマヨネーズを有り余るほど大量にぶっかけたら叱られるかもしれない。でもそれが、黒い下着や郵便ポストにマヨネーズをかける事より悪いと誰かが決めたのか。

マヨネーズ風呂を作ったからと言っても、学校のマヨネーズ畑に行ってはならないわけでもない。道を歩いていてすれ違い様にマヨネーズをかけられて嫌だったらケチャップでもかけてやればいいし、マヨネーズで綺麗に日焼けしたいなら一度試してみればいい。

マヨネーズがどれほど好きか、マヨネーズにどれほど思い入れがあるのか。そもそもマヨネーズってなんだ。

みんなもっと自分勝手に、価値観がぶつかってみてから物を考えてもいいんじゃないのかな。特に恋する時とかは。待ってる時間はもったいないし、端で見ている分にも大騒ぎになっている方が僕は楽しい。

凍結クロロホルム

不都合にして呟かざるを得ず、昨日寒く今日は非常に暖かく、気象病なのか目も開かず体育座る夕景、足元の絨毯に顕微鏡の眼が固定され、灰色を構成する糸屑色の混紡が赦しがたく目眩い、安い古着と無用の暖房に汗を流し、右側の掻痒と左側の鈍痛と前後の不具合に苛まれ、アルファベットと数字は与り知らぬところで優雅に奏でられ、責任をたらい回す文化は国境を越え、関わる事全てが裏目に出たように感じるからこそ、しばし湯煎に頼る可能性がある。

土曜の夜に過度に飲酒し、雪の降り積もる中バス停のベンチで寝たが、早朝目覚めて帰宅した。人生一回休みの刑?風邪なのか花粉症なのか鼻水がひどい。

日曜は食事の時間以外は完全に布団の中で、暖房もつけず猫を抱えて寝ていた。これはひどい養豚場ですね。

君とチューインガム

薄くなりつつある頭を丁字剃刀で滑らかに磨き上げ、よく噛んだチューインガムを薄く延ばして貼り付ける。しばらく待つと、それが乾いて縮むに連れ、皮膚と薄いガムの膜が合わさった何かが不規則に引き攣れ、心地良いマッサージとなる。

検察官に読み上げられた訴状の変わらぬ一文主義が訳もなく気になるのと同じように、チューインガムの単語間の連接が気になる。そんな無駄な事を考える前に、空に向かって伸びる先端の見えない梯子を駆け登れ。

闇夜の空の上から、薄く薄く延ばした甘いチューインガムをふわりと拡げ、眠る街も人も全てを覆ってしまおう。何も知らずに眠っている人は、甘いガムを噛む夢だけ見ても、きっとそのまま明日が来なくても、何一つ気付きはしない。

並べたマグロに鈎を引っかけて冷凍庫でフォークリフトを乗り回す。外に出たら、解凍した切り身に誰かまたタンポポを乗せてくれないかと思いつつ、今日も味の無くなったチューインガムを噛み続け、唾液で空腹を満たすふりをする。