危険信号 (2)

名古屋は呪われているが、それは400年程前から殺され続けた人が今も繰り返し生まれてくるからに違いない。
岡山は残酷なほど乾いて凍っている。通いつめるほど皮膚がささくれて削げ、骨だけを残して乾いた血の固まりがバラバラと落ちる。
仙台には髪の毛に包まれた邸宅があって、それは海辺の別荘地にある。髪の毛の持ち主はとっくに死んでいるが、髪は今日も伸びつづけている。
福岡で生き延びることができると人門の人物にはなれるが、五体満足で生き延びることはとても難しい。裸で走って逃げている女性を牛刀で滅多刺し。
横浜で食べることのできる肉は全部ネズミかミミズのミンチだ。野菜のふりをした新聞紙を噛みながら、下水で作った毒水を飲む。

ναρκισσου?

少し前向きになろうと思って、あの人にもう一度好きになってもらうにはどうすればよいかなんて考えてみる。好きになってもらうというか、一緒に仲良く過ごせるには、というレベルでいいのだけれど。
自分と一緒に過ごすことが少しでもプラスに寄与できたらというだけの話なのに、今はとても難しい。いちいち考えてから努力する種類のことではない気がする。
まだもう少し時間が要るのか。

βαρβαροι

色々考えて物を言っても、彼らの意図に合っていなければ無駄なのだ。
それなら初めから何も考えずに言われるように従っていた方がマシとも思えるが、そもそもその内容がどうしても気に入らない。だとすればお互いに無視しあうしかないのかも知れない。
遠く離れた国の異民族のように、お互いその存在を知らないままの方が幸せだと思う。

不思議なあだ名の君へ

君を間接的に殺したのは僕なのかも知れないけれど、君が果たせなかった分まで幸せになろうと思っていた。心配しなくても、彼女はきっと幸せだよ。僕のことなんか忘れて、幸せに過ごしているはずだと思う。多分君のことは彼女は一生忘れない。だから君の勝ち。そして僕が幸せになってはならないのは、君を殺した報い。
僕には君ほどの勇気はないから、七階建ての屋上から飛んだりせずに、まだここにくすぶっている。でも、そうやっていることにどれほどの意味があるのかな。
君を乗り越えてここまできたつもりが、絶対に追いつけないほど遠くまで追い越されてるんじゃないのだろうか。自分の意志で自由な空に飛べた君と、寝る時間も惜しんで何も考えずにただ機械として働く僕では、どちらが人間らしいかなんて、初めからわかってるじゃないか。

逆マッチポンプ

自分で畑を耕して種をまき、自分でそれを踏みにじって殺していく。
絶対に何も生まれてくるはずはないし、それについて自分で文句を言うのは浅薄なことだ。
中国人が日本人を罵っているとの新聞記事を読みながら考える。
これからも彼らは我々を許すことはないだろうし、それと同じく僕は幸せになることもない。
同じ過ちを繰り返しているのかもしれないが、そういう生き方を選んだのだから、黙ってそこに骨を埋めるべきなのだ。

振り返ってみれば

不安定ではあるが生活は出来ている。
好きなものを食べられるし、自分の甲斐性で広めの部屋を借り、楽器を並べる余裕はある。
とりあえず五体は満足だ。童顔ではあるが容姿は酷いわけでもない。
何でも相談できた友人たちも、深く愛し愛された恋人たちも、ここ10年以上ほとんど途切れることなく誰かがそばにいてくれた。
考えてみれば、それなりに幸せな人生だったと思う。
僕はまだ支えてくれた人たちに何も恩返しが出来ていないけれど、このまま逃げ切ってしまえたらなんていう無責任なことを考える。
逃げたその先に何があるわけでもなく、僕らの落ちて行く先はあそこでしかないんだけれど、逃げ込んだらそれで救われる気がするから世界には無数の宗教があるのだ。スピノザの定義する神は、唯一その真理という姿でのみ存在する。皆並んで落ちていくけれど、場所によって地面の高さが違って、叩きつけられるタイミングが違うだけだ。

プラネタリウム

君と見たきれいな夜空、天の川を横切る流れ星。
二人で手をつないで、背筋が震えるほど感動したあの頃。
あれは全部機械とプログラムで作られた、偽物だったのかなあ。